九六フィートの高さから

それとなく落下 相対速度は限りなくゼロ

2022

2022年に好きだったものの記録。

 

映画(見た順)

  • スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
  • カモン カモン
  • TITANE
  • マイスモールランド
  • セイントフランシス
  • NOPE
  • 秘密の森の、その向こう
  • 四畳半タイムマシンブルース
  • MONDAYS
  • ケイコ 目を澄ませて

国外・国内5作ずつというバランスのよさ。

NWHは前日に過去2シリーズを一気見して一夜漬けで挑みましたが、見てから行ってよかった。いちばん感動したシーンも過去作のオマージュというか、過去作では果たされなかったことを取り戻すシーンだったし。

カモンカモンは待望の公開だった。監督のファンなので。今後の人生で何度か見返すタイプの映画だと思う。

映画体験の衝撃度でいうと、チタンとNOPEが群を抜いていると思う。どちらもホラーっぽい演出がされていて、でもホラーではない。チタンで味わった痛みは視聴覚芸術である映画から受け取ったものとは思えない身体性を持っていて恐ろしかった。ストーリーには疑問があるけれど。NOPEはめっちゃ楽しかった!

マイスモールランド、セイントフランシスの等身大の切実さ、秘密の森、ケイコのささやかさ。映画館で見る喜びには2種類あって、NWHやNOPEはデカい映画の喜び、秘密の森やケイコは小さい映画の喜びがある。いい邦画は後者になりがち、というかデカくていい邦画ってなかなかない。ケイコの見せるためではない手話、ただただ撮影されたということの美しさを持った映像・物語には静かなパワーがあった。

四畳半タイムマシンブルースに対しては冷静な判断はできません。僕のための映画なので……。ごめんなさい。左京区、鴨川、ヨーロッパ企画森見登美彦アジカンですからね。ごめんなさい。

MONDAYSはヲデオンで声出して笑った。そういう映画館でよかった。

 

働き始めて映画を見る頻度は減るのかなーと思ったけれど、同期とも映画館に行ったりして、映画の話をすることはけっこうあり、それなりのペースを保っている。いっしょに行きはするけど、席は各々バラバラで取り、終わってからうだうだ喋る、という見方ができていてよい。席をバラバラで取ろうと言ったとき、最初はびっくりされたけど、やはりこの方法で見る方が楽しいし楽。とてもありがたいです。

昨日は映画館はじめとして『そばかす』を見ました。公開は2022年なので入れてもよかったですが、2023年の一本めとして素晴らしかったので2023年に入れます。

 

小説

  • N/A(年森瑛)
  • 光のとこにいてね(一穂ミチ
  • きみだからさびしい(大前粟生)
  • 死んでいる私と、私みたいな人たちの声(大前粟生)
  • ほんのこども(町屋良平)
  • この世の喜びよ(井戸川射子)
  • 方舟(夕木春央)
  • 此の世の果ての殺人(荒木あかね)

中途半端な作品数ですが、2022年刊行のもので印象深いもののみに絞った。

僕にとって2022年はなんと言っても『N/A』の年だった。思い入れのある一冊になった。夢中になって読んだという意味では『光のとこにいてね』と『死んでいる私と、私みたいな人たちの声』が色濃い。まったく意味はわからないけどすごいものを読んでしまった、という読書体験の強さでいうと『ほんのこども』はダントツ。仕事柄、これまで読んできていないミステリーにも手を出すようになり、『此の世の果ての殺人』『方舟』はめちゃくちゃ面白かった。

既刊で印象に残っているものは『鳥がぼくらは祈り、』『ここはとても速い川』『センセイの鞄』『夏物語』『ある男』『少女を埋める』とか。

読書メーターとかを付ける気にならないのはなぜなんだろうね。こういう時は便利なのですが。

いまだに現代思想系の読書会も続いていてすごい。『言葉と物』とかマクルーハンニーチェアーレント、ハーマン、メイヤスー。いまはホワイトヘッドに苦しめられている。どこまで続くでしょうか。現代思想といえば千葉雅也の『現代思想入門』は素晴らしかった。

今年もよろしくお願いします。

2021

2021年に好きだったものの記録。

 

映画

  • マトリックス レザレクションズ』
  • 『リスペクト』
  • 『あのこは貴族』
  • 『私をくいとめて』
  • 夏への扉
  • 『映画大好きポンポさん』
  • 『まともじゃないのは君も一緒』
  • 『羅小黒戦記』
  • 『ヤクザと家族』
  • 『ドライブ・マイ・カー』

意外と映画館に行けた1年だったと思う。

年末に1年のベストを書くからどうしても新鮮な記憶のある作品が強くなってしまう自分だけど、なんとかそれを差し引くべく努めたつもりで、そのうえで『マトリックス レザレクションズ』がやっぱり良かった。前三部作も一作目しかまともに見ていなかったけど、IMAX上映の期限に駆け込む形で見た(『呪術廻戦0』の公開の影響)。それでもわかるような作りになっている。作品内でも自己言及されているように原点回帰だったから。

20年前の前三部作を「くそったれども」から取り戻すための新作という感じで、作り手側(監督だけでなくおそらく出演者たちも)の強く明示的なメッセージに感動した。ラストもすごく好き。

『リスペクト』は『ブルース・ブラザーズ』が大好きな身からすると、あの食堂で汚い格好で歌い踊っていたおばさんにこんな人生があったのかと重く鈍い打撃。エンドロールに移る本人の姿でけっきょく一番泣いた。

今年は邦画で好きな作品が多く、『私をくいとめて』『あのこは貴族』『まともじゃないのは君も一緒』なんかは特に響くものがあった。『私をくいとめて』については『ストーリー・オブ・マイライフ』といっしょに文章を書いた。

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『ヤクザと家族』は最後の磯村勇斗がいい。『夏への扉』はうまいこと現代設定で映像化しているし藤木直人がいい。

アニメ映画も何本か見ていて、『Away』とかも映像面白かったけど、アニメーションのすごさでは『羅小黒戦記』が群を抜いてすごかった。ディズニージブリって感じ。かわいらしいキャラがベタな設定で特に説明もないまま見たことない必殺技を繰り広げまくる。アイデアとアニメーション技術を湯水のようにぶちまけ続けててわくわくした。『ポンポさん』もすごくて、全部うまくいくぶち上げ「夢」物語で気持ちがいい。クリエイティブの人たちの労働環境に対する批判がないのはいかがなものかと思ったけど。

ワースト映画は『竜とそばかすの姫』です。細田守のことがそれなりに好きだからなんですが、ここ最近の作品には期待を裏切られて、怒りが湧くことが多くてしんどかった。細かい話はいっぱいできるけど、フラスコ飯店で編集担当した記事にまとまっています。

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『ドライブ・マイ・カー』について語る言葉をまだ持てません。

 

 

今年は音楽をあまり聴かない一年だった。なんでだろう。一つの理由に、自分は本を読んだり勉強したりしながら音楽を聴けないタイプだからというのがあると思う。

 

小説や本は映画のように何をいつ読んだか記録を取ってなくて、おぼろげな記憶しか持っていないけど、それでも今年いちばん印象に残ったのは町屋良平の『ふたりでちょうど200%』という小説。小学生時代の同級生で、溺れた/溺れるのを見たという記憶を共有している二人が大人になって再会する、という設定を同じくして、違う物語を4本の連作にしている小説。町屋良平の文体は、前から時間軸というか世界線が一定でない感じがあって、さらっと反実仮想を書いたりする人だったから、ある種転生もののようなこの連作の書き方には納得した。いかにも文学っぽい比喩表現などのレトリックレトリックした文章が苦手な自分だが、町屋良平の文章は理解したり共感したりする前に「身体がわかっている」ような感覚で読んでしまう。だからほんとうはわかっていないけどどんどん飲み込んでしまう感じ。それが何か知りたくてずっと読んでるのだと思う。

 

今年は就活にはじまり修論に終わった。来年からは東京で働きます。自分のナイーブさをどう扱うかという問いが見えてきた20代前半最後の一年だった。

2020

2020年に好きだったものの記録

音楽

  • 火傷に雨/君島大空
  • Siva/BBHF
  • Me & You Together Song/The 1975
  • 何なんw/藤井風
  • The Steps/HAIM
  • Easy Breezy/chelmico
  • アザトカワイイ/日向坂46
  • The Age (feat. BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka) /Gotch
  • exile (feat. Bon Iver) /Taylor Swift
  • Good News/Mac Miller

今年はなんといってもBBHFのアルバム『BBHF1 南下する青年』なんですが、曲単位で絶対これみたいな感じではなく、アルバム単位での印象のほうが強い。だから曲単位で最初に挙げるならば君島大空の「火傷に雨」になった。脆いけどきれいだから強い、みたいな曲。

あと2020年のリリースじゃないから入れていないけど、11月はBon Iverの『i,i』をずっと聴いていた。リリースされたころにはあまりピンと来なかったけど、おそらくBBHF経由で今年になって好きになった感がある。

Mac Millerは全然知らなかったけど最近教えてもらっていいなと思った。

 

映画

  • ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語
  • TENET テネット
  • 幸せへのまわり道
  • ブックスマート
  • はちどり

結局あんまり新作を見ることができていなかった気がする。とはいえ映画館にはけっこう行った。ジブリやノーラン作品のリバイバルが多かったから。『もののけ姫』は今回のリバイバルで初めて見たし、『インセプション』や『インターステラー』といった大好きな作品をIMAXで見ることができるという幸運にも与った。

あと上に挙げた以外にもおもしろかったものはあるが、いま振り返って好きだとすぐに思えるのはこの5本だったのかな。正直あまり真剣に考えてリストアップしていないかもしれない。 

『Little Women』は今後感想が変わっていきそうな作品ではあるけれど、めちゃくちゃ泣いちゃったので僕の負けです。『TENET』はわくわくさせてくれてありがとうという気持ち。『幸せへのまわり道』は自分の男性性とどう付き合っていく?という自分のなかで大きくなりつつあったテーマにタイミングよく打ち返してくれた作品だった。

 

今年フラスコ飯店で書いた記事

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そうか、〈くよくよ〉というテーマを明確に掲げ始めたのも今年に入ってからなのか。もっと前な気がしていた。

 

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これはかなり読まれました。固いし長い記事なのにけっこう読んでもらえて、自分の書く記事に多少なりとも価値があるのかと思えた。

 

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逆襲書くの楽しかったな。手帳にメモを書き殴りながらのブレスト方式でやった記憶があるし記録がある。逆襲へのアツいお返事をくどうさんからもらったのも感動した。

 

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わた藤(後述)を編集しながら出たアイデアと好きな作品を詰め合わせた、個人的な好みが色濃く出ている定食。イラストがめっちゃお気に入り。

 

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これとか下にある『星の子』は、編集長から「これ、どう?」みたいに提案もらって見に行って、わりとすぐに書いて出す、ということをできた優秀な記事です。いつでも、どんな作品でも書ける、になりたいけど全然無理〜〜なので、そこに向かうべく踏み出した記事でした。

 

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これは企画も出さないまま勝手に書いて、編集長に売り込んだ記事でした。初めてのパターン。気に入ってる。

 

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これもお気に入り。僕は好きな映画のことは逆に書けないタイプなんですが、これはちゃんと書けたし、突飛で独創性のある読みとかでは全くないけど、意外と言われていなそうな大事なことを自分なりには書けたと思っている。名刺代わりにしたい記事。

 

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先ほど『マザー』でも書いたけど、フットワーク軽く書けたという点で評価したい記事。とにかく書き続けるしかおもろいもの書く術はないのだろうなと実感した。

 

〈わた藤〉の編集

今年のフラスコ飯店を語る上で外せないのが、わじまが書いている連載「わたしがグダグダうじうじしていることは大抵すでに藤原基央が曲にしている」ですね。企画段階からいっしょに詰めていきました。5月に1曲目「ディアマン」を公開してから1、2か月に1曲ずつくらいのペースで4曲公開し、5曲目を準備しているくらいのタイミングで、スキャンダルが発覚。どうしようか、と相談したけれど、やっぱりあの問題に触れずになかったことにして続けるのは僕たちがフラスコ飯店ですべきことではない、ちゃんとそれについて考えて、向き合って、記事にすることこそ僕たちがやるべきことだと思い、準備を始めた。

しかしいっしょにやっているとはいえ、書いているのはわじまなので、わじまの苦しみを本当のところは知りようがない。3か月くらいかけて書いてもらって、そのあいだにも夜な夜なオンラインでうんうん唸りながら考えたり、構成を練って文言を練って、めちゃくちゃがんばった。でも僕はすごく楽しかった。それは編集という立場だったからこそかもしれない。わじまには最高級品質の拍手を送りたい。

そして長くてややこしくて重い記事をポップに読みやすくするために、くどうさんがビジュアル面でディレクションしてくれたのも大きかった。毎度まいどアイキャッチイラストのアイデアをいくつも出してくれて、この連載への愛を感じています。

ひーひー言いながらみんなで必死に作った記事が完成した。これです。

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がんばった甲斐あって、めちゃくちゃ読まれている。反響も大きい。うれしい。

 

2021年は就活と修論の1年になります。がんばるぞ〜〜