九六フィートの高さから

それとなく落下 相対速度は限りなくゼロ

2018-01-01から1年間の記事一覧

夏の濃度

正直、夏は苦手だ。なぜなら、夏は濃すぎるからだ。 生きていくだけで精根を削り取られるような思いにさせる、あの空気。むせ返るほど匂いと気配に満ちた空気。温度の高い空気は密度が小さく軽くなるはずなのに、僕の科学的知識は夏の息の前に倒れ伏すしかな…

空白を走る

電車に乗っている。 いつ乗ったのか確かではないけれど、もうずいぶん長い間乗っているような気がする。 どこかで見たことがあるような、だけど全然知らない電車は、どこかで見たことがあるような、だけど全然知らない街の中に、きれいな曲線を描いていく。 …

郷愁と臆病

もうすぐ21になる。 ハタチになる年にこのブログを書き始めて、ハタチになるときにも記事を書いたりした。 ハタチになるのは人生においても一つの大きな区切りだし、何より「ハタチ」という言葉の持つ響きは幻想的で、幾分ファンタジーの世界に足を踏み入れ…

誰にも会わない日

一人暮らしを始めて一年が経とうとしている。 僕より少し遅れて入居してきた隣の部屋の住民とは、いまだに面識がない。とはいえ、同じ大学の学生で、おそらく同じ学年、なんならあいつかなくらいの見当はついている。なぜそう思っているかは忘れてしまった。…