小さくて弱い透明な羽虫の夜
最近夜眠れない。そのうえ朝起きるのも苦痛。
どうにかならんもんかと思うけれど、どうにもならないらしい。
電気を消した暗い天井や壁を見たり見なかったりしながら、どうにもならないことをぐるぐる考えたり考えてるふりをしたりする。
暑いのが悪い。足の裏が火照ってたまらない。
部屋の空気がこもるので、寝るまでの間は窓を開けている。もちろん網戸は閉めてあるのだけれど、それでも法の目をかいくぐって小さな虫たちが侵入してくる。
かなり多い。でも窓を閉める方がきついので、そこは我慢している。
時たま晩御飯に飛び込んできたりするので、優しく殺す。
いくら優しくても殺しているので、ごめんね、と言う。
また殺す。ごめんね、と言う。
そろそろ窓を閉めようかなと思う。
枕にいつの間にか涎を垂らしながら考えるのは、いまのことと、将来のこと。
なんだかとても寂しくなってしまういまのこと。世の人たちはどうやって一人じゃなくなっているのか、わからない。なんて言いながら自分が動くことを放棄してることもわかってて、かっこわりーな、と思う。そりゃ眠れないわけだ。
将来のことはずっとずっと頭の割と目立つところに居座り続けているし、ちょっとずつ見えてきたり、やっぱりそうでもなかったりするけれど、なかなか決着はつかない。まだつけたくない、つけるのが怖い、というところもある。選択するのは怖い。だって選択したらもう一方は捨てないといけない。捨てるのは怖い。選ぶのは怖い。いまもまだ保留にし続けている。かっこわりーな、と思う。
自分のことはそんなんだけど、人の話を聞くのは好きだ。
誰かが考えていること、将来やりたいことの話を聞くのが好きで、よく尋ねてしまう。
彼はエネルギー問題解決に向けて研究者になろうと考えているし、彼女は大きなお家を建てるために1000万円プレイヤーになるべく親に借金してWスクールを始めたし、彼女はジャーナリストになろうと就活したけれどダメで彼女いわく「学歴ロンダリング」して院に進んだらしい。
みんなすごいなと思う。
僕はどうも薄情なせいか、気持ちを強いまま保つことができない。恋もできない。
かっこわりーな、と思う。
僕はもうすぐ二十歳になる。
反則と罰則と変速
僕は京都の大学に通っている。
今日は授業と授業との間の空いた時間に、自転車で三条の駅前にあるブックオフに行った。
最近なんだか物語に飢えていた僕は、古本をおもうさま買い漁ってあらゆる膿を蹴散らしてやろうと考えたのだった。
自転車を止めて、半時間ほど物色し、思った以上の収穫に満足して店を出ると、自転車がない。そこに止めてあるはずの水色のチャリンコがないのだ。あるはずのものがなくなっている時の、急に知らない世界にぶち込まれる夢にも似た絶望感。すでに次の授業まで四半時間をきっていて、焦る。さまざまな焦りが一挙に押し寄せるから、僕のもともと小さいキャパシティは即座にクライマックスを迎え、まず何をしたらいいのかわからない。え?自転車どこ?どこ?はへ?
撤去されてました。
いや、間違いなく僕が悪い。間違いないね。世の中は不確かなことだらけだけれども、これだけは確かだね。
保管場所は、なんと、十条。
十条なんてあったの??!
ご存知の通り、京都市内には東西に走る通りが南北にたくさん並んでいて、御所から南にゆくに従いその数字が大きくなってゆく。
つまり、十条は、三条よりも、七条分も、南だということ!
行きました。五限が終わってから、暗くなって行く鴨川沿いを電車で下りました。
先述の通り、この撤去事件については、全ての責は僕にあり、疑いようはない。
だからこそ僕は、ビビっていた。
係りの人にあられもないくらいにどやされるんではないだろうか?最近ご無沙汰している冷淡極まりない目線で長々と説教を垂れられるのではなかろうか?手続きに必要なお金はやはりお釣りが出ないようにぴったり用意すべきだったんではなかろうか?
全然そんなことはなかった。
係りの人は、物腰の柔らかそうなおじいさん二人だった。
むしろ、自転車まで案内してくれたおじいさんが、自転車にはっつけてあった管理のためのシールを剥がすのに苦戦していたから、僕が適当で大丈夫ですよというと、いやこれのバーコードが必要やからちゃんと剥がさんとあかんねん、あ、そうなんですか、じゃあ大事ですね、みたいに会話したりして、中身は特におもしろくもなんともないのだけれど、なんだか嬉しかった。
帰りの安全まで願ってもらって、その場を後にし、すでに薄暗くなった知らない街を、知っている水色の自転車の上で歌いながら九条ほど北上し、うちに帰った。
もう撤去されないようにしよう。
一回性と二回生
新学期が始まった。僕は大学二回生になった。
去年はなんだかなんにもしないまま時間が過ぎていく感覚だけが痛いほど鮮明で、自分はこんなんで大丈夫なのか?と落ち込んでいた時も多かった。
自分がどんどん時間を無駄にして捨てていってるという思いがぐるぐると頭の中を支配していた時期だった。
でもいま考えれば、その時期にぐるぐると考えていたことはいまのスタンスになっているし、高校生までの自分が全然気づいていなかったようなことをたくさん考えるようになった時期だったから、なんだ、全然無駄じゃなかったじゃん!と思えるようになった。
あとはその時の経験を活かして、面白い授業しか受けないぞという覚悟ができた。まあできるだけなんだけれど。でもそれができやすい学部に入った自分を褒めたい。
今年はもっと活動をするぞ。なんやかんやと。
まずはお勉強。
去年の後期に、社会学という学問に出会った。これがめちゃくちゃ面白いの。
社会学は、学問というよりも、ものの見方、思考法といったほうが近い気がする。目の前にある現実を、理解したり解釈したりするための道具であり武器。社会学の面白いのは、”脱領域”的なところ。研究分野が全然限定されていなくって、社会学のアイデンティティはそこではなく、その意識、社会学感覚なのだ。
だから社会学的なものの見方を使って、なんだって分析することができる。
それってすごくないですか?こんなに使える学問他にないでしょ!と思いました。
去年大ヒットした映画『君の名は。』はなぜヒットしたのか?
なぜビートルズやマイケル・ジャクソンはカリスマとなり得たのか?
なんてことも社会学的に考察することができる。というのもこれらは僕が実際に去年の講義で聞いたものだからだ。めちょくちょ面白かった。
だから今年はまず社会学を中心に、しっかり勉強していこうかなと思っています。
次は何と言っても文化的素養を深めていきたい。
音楽・映画・小説、そこに短歌も。エンタメ。文化的娯楽。
最近舞台見にいってないな。近々KAJALLA行くけど。
人生は一回きりですものね。できるだけ多くの、できるだけいいものに触れていたい。
そんなこんなで。バイト探してます。